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近畿生コン関連協議会

KURSコラム

一線で働くプロが語る、技・思い・伝承。

一線で働くプロが語る、技・思い・伝承。

  1. 第2回「伝える」人見建設株式会社(後編)

2018.12.07

第2回「伝える」人見建設株式会社(後編)

伝える(前編からの続き)

自己責任とチーム連携の欠如が、品質の低下や事故につながる。

いま社長が仰られたのは大変貴重なお話です。今日のお話は、木造建築物の話ですし、我々の業界とは歴史も違いますけど、コンクリート構造物にもこういった技術や考え方があるでしょうし、話題としてコンクリート業界にも伝えるべきだと思うんです。現状ではコンクリートを納入する工事現場で、監督が徹底しているのは安全配慮だけ。工法だとか建築への情熱などの話は皆無なんです。私自身も10数年前は現場で働いていてコンクリートを運んでいましたけど、こんな話を職人の方としたことは一度もない。社長が仰られたように、職人の技術継承があって、技術が有効に活かされて、一つの物が出来上がるんですが、私はその工法が効果を上げるためには質の高い資材が必要だと思うんです。先ほどのお話をうかがって、ほんとに目から鱗と言いますか、初めてこういうお話が聞けて、すごくうれしいです。

ところでいま現場で、見習いベテラン含め、いろんな方が仕事をされていると思いますが、特に最近の働き方をご覧になられて、取り組み方として必要だと思われることはありますか?昔に比べて今はこうだとか、過去はこれで良かったが、今はこうしないとだめだという変化は……働き方として……。

昔は親方が見習い数人を連れて、仕事を通じて多くのことを教えてくれていたかと思うのですが……、最近では、自己責任の無さというのでしょうか、そういうところが変わったと思います。

はい、はい、自己責任の無さね……。

この業界に入った頃によく聞いたのが、「ケガと弁当は自分持ち」と言う言葉です。弁当は手弁当で、ケガも自己責任で「自分自身で守らんと誰も助けてくれへんよ」ということやと思います。でも今は、現場にいろんな人が出入りするようになった。職人の平均年齢もずいぶん高齢化している。それに昨日まで全く違う仕事をしていた人が現場に入ってくることもある。ですから安全配慮義務が重要だと思います。昔と比べてずいぶん変わったなと思う点は、例えば少しの段差があって、つまずいて怪我をした場合、昔だと、それも勉強として「どんくさいな、足元見てないお前が悪いんや」と言われて終わりでしたが、今の時代は、現場の安全配慮がどうだったのか……となる。ですから工事責任者としては現場事故が無いようにピリピリとしています。

伝統工法を使う建物にも、基礎にはコンクリートを打設することも多い。

う~ん、なるほど。

あとは、現場の職人同志の仲間意識ですかね。

いろんな人が参入するのはある意味では良いのかも知れませんが、同じ釜の飯を食う、みたいなチーム意識というのは少なくなってきたかなと思いますね。

はい、分かります。そうですよね。

現場では自分の仕事だけして終わりではなく、そのあとの工程を考えて、電話連絡をするだけでもずいぶん良くなると思います。でも今は携帯電話など便利になったにもかかわらず、チーム連携という意味では、希薄になった感じがします。

つまり、技術として継承される以外のもの、時代や世代、環境の変化なんかによって変わらざるを得ないような……。

まぁ……時代の変化と言いますか、単価が下がって必要以上に予算を掛けられない現実……。

それもあるでしょうね。

でも、ウチは社員大工を育てていて、木工事がメインの現場では、大工が現場監督の代わりに施主さんへ進捗状況を報告したり、専門業者の段取り調整役になってくれたりと頼もしい存在です。業者さんからは「他所の現場では、大工さんが入れ替わったりするから連携が取れていない」、「納まりのわかっていない現場監督が多く苦労した」などのお話を耳にします。

人見さんのところは、さすがですよね。

一つの現場では、20以上の専門業者が集まって工事を進めていく。先ほどもお話ししたように、自分さえ良ければそれで良いではなく、みんなが協力しなければ、決して良い仕上がりにはならないと思います。そのあたりを業界全体で認識しないといけませんね。ですから石川さん達の組合活動も大事なことやと思います。協力業者間で仲良しこよしではダメですが、互いに意見を言い合える関係を築くことが大事ですね。ウチの社是(しゃぜ)は、〈和気あいあいの家づくり〉なので、みんなが和気あいあいと仕事をした結果、お客様にご満足いただき、地域社会から頼りにされる存在になったときに、ほんとうに良い関係が生まれます。

その通りですね。でも社長が仰るように、今の現場環境から考えると、難しいところもありますよね。余談になりますが、私は最近、現場の調査に入らせて貰ってるですが、クレーンがよくひっくり返る事故があるじゃないですか。あれを現場の人に聞きますと、オペレーターが替わるそうなんですよ。A社のクレーン車が契約されていても、ずっとそのクレーン車が居るかというとそうでは無いらしいんです。今居る人は次の現場に行って、次はB社から入ってくる、あるいはA社でも別の人が入ってくる。そうなると、現場というのは狭いですから置き場所が日々変わってしまう。それに対応できずに、アウトリガーを掛けるところを間違ってひっくり返してしまう、などのパターンがほとんどらしいんですよ。

それも連携で変わりますよね。

そうなんです。実際の作業指示者の方との連携がとれずに、見えないところで作業をしていて、サインが出たと勘違いして吊ったら、そのまま落ちたとか、引っ張られたとか、引っかかったとか、いろいろ起きる。それは全部連携不足で、現場の方も相当苦慮されていたというか……、頭を悩まされていました。

それって、せっかくの技術を活かしきれず、もったいない話ですよね。

ほんとうにもったいない話です。

不注意からの怪我だけでなく、死亡事故につながるケースもあるでしょうし、そうなると何よりもご家族の方々に対して本当に申し訳ない。

近年の異常気象への対応も含めて、生コン供給体制の拡充を希望。

それでは最後になりますけど、社長のお考えで結構ですので、普段コンクリートに対して感じていること、求めたいこと、今後期待したいこと。例えば、安定供給とか、よりよい品質にして欲しいとか……などをお聞きしたいのですが。

会社としては、土木工事の割合は少なく建築工事が中心なので、コンクリートを使うとすれば基礎や外構のほかに、鉄筋コンクリート造の建物かと思うのですが、コンクリートメインの現場に関わること自体が少ない、ということが気になっています。あとコンクリートの安定供給に関して言えば、日曜・祝日に出荷してもらえないことですね。特にGWやお盆休みの時期は、どこからも取れないことが有りました。もちろん組織的な事情も、国民の休日も理解していますが、そういうときに工事を依頼されるケースもありますから。

はい、はい、はい。

出荷してもらえない理由を聞くと、プラントの点検や機械修繕のためと言われるんですけど、そういうときこそ、業者間の連携や組合として「〇月〇日は、京都市内なら〇〇生コンで対応しています」というふうになって欲しいですね。

はい、はい、はい。

そんなことができるようになればな……、とは思いますよね。

供給がストップしますからね。

はい、これまでも大型連休のときに、工場の休日にあわせてラインの入替えや機械搬入のために、基礎などの工事用コンクリートが手配できず、手練りをすることになって、前もって資材と職人を段取りしたりして大変なことに……。

つまりコンクリートの供給体制が、もっと柔軟にならないか、ということですよね? そうです。ほかには先ほど話していたフレックスタイムの導入も、視野に入れていくべきではないでしょうか?真夏の炎天下のなかでの作業より、少し早い時間帯や少し遅めの時間帯に打設することで、解決することがあるのではないでしょうか?ただし現場近隣との関係や安全性などの問題があるかとは思いますが、「この夏場に打設することは良くない」などの声を、業界からあげてもらうのもありかと思います。

分かりました。今日は、私自身すごく勉強になりました。大阪では聞けない話ですね。先ほどの供給体制の話ですが、社としての取り組みは、各社それぞれ変わってはきているんですけど、実際はと言いますと……。

なるほどそうですか……。やはり、すぐには難しそうですね。

見習いの子の30年後を見据える。お客様にも伝統工法の良さを伝える。

私もこの仕事に携わるようになってから、違和感を感じながらやっていたんですが、今日はこういう貴重なお話をうかがえてうれしいです。

私も以前は、業界に関してそれほど気にしていませんでした。でも事業承継をしてから気にするようになって、調べてみると、30年前に比べて、大工さんの人数が約半分になっているそうです。

そうですか、半減ですか?今は。

はい。かと言って、建築の仕事が半減しているかと言うとそうではなく、住宅供給に関してはピーク時の約160万戸が、現在では約90万戸となっています。でもリフォームなど、さまざまな仕事があるなか、このままでは間違いなく深刻な職人不足になると考えています。でもそんななかウチの会長は、見習い大工さんが仕事している姿を見て「30年後には、とっても貴重な存在になるからな」と肩を叩いていました。確かに職人が減少していくなかで、本物の大工として京町屋など手掛けられる人は、本当に貴重な存在になるでしょうね。

AIなどの技術で、この業界もかなり変化していくとは思いますけど、技術を持った人でしかできない仕事は残っていくと思います。

お客様との会話の中でも、「一緒により良い家を造っていきましょう!」と話しますが、いざ仕上げの商品決めになると「人見さんにお任せします」って言われる。「私じゃなくて、お客様が住む家なので、面倒ですが一緒にしっかりと考えましょう」と言って相談にのります。

代表取締役会長の人見明氏は、今も建設現場に足を運び、職人に声をかける。

建売のように、一般向けの家を買うのではなく、家はお客さんと一緒に造るものなので、地鎮祭のときには、施主さんの家への思い入れを、必ず我々職人に伝えてもらうようにしています。それを聞いた職人達は、このお客様のために一生懸命に頑張ろうと思いますし、例えば急な悪天候のときでも、大切な家が濡れないように配慮ができる。しかし顔が見えないとそういったきめ細かな対応ができないと思います。

どの業種にも当てはまると思いますが、お客様満足度を高めようと思うと、従業員満足が満たされなければ達成できない。そのためには従業員みんながやりがいを感じる会社に、そして業界にしていきたいですね。

本日は、貴重なお話を聞かせて頂きまして、本当にありがとうございました。

経営理念

  1. 住まいづくりを通して、世の中のお役に立ちます。
  2. 社員の生きがいある人生を実現します。
  3. 限りなき挑戦を大切にします。

インタビュアー

石川 健造(「結」副編集長)

人見建設株式会社

住所 〒604-0993 京都市中京区寺町夷川上ル 久遠院前町686番地
TEL 075-231-0713(代表)
FAX 075-231-1227
URL http://www.hitomi-k.co.jp/

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