独占連載「偽装労組」
連帯ユニオン関生支部の正体を暴く。
連帯ユニオン関生支部の正体を暴く。
2020.05.15
この事件はいくらなんでも、<権力弾圧>とは言えないものだ。事件とは、前回(Vol.16)紹介した、政治資金規正法違反事件の判決(罰金50万円)が、大阪地裁で言い渡された直後の2006年9月22日、武建一委員長が大阪府警に逮捕された大阪拘置所(大阪市都島区)の、刑務官に対する100万円の贈賄事件である。
収賄側は当時、大阪拘置所の刑務官だった桑野勝彦元被告。事件発覚のきっかけとなったのは、歯科医院長を脅迫したとして逮捕・起訴(2004年6月)され、同拘置所に入所していた、暴力団山口組系天野組の天野洋志穂組長(当時)に、桑野元被告が便宜を図った見返りに同組長から、家族旅行の費用や乗用車をもらったとして2006年8月、収賄で逮捕されたことだ。桑野元被告は、同拘置所で暴力団関係者など、いわゆる<処遇困難者>を担当。天野組長もその1人だった。桑野元被告は、天野元組長に依頼され、監視カメラ付きの独房からカメラのない部屋に移したり、担当の弁護士以外との接触や連絡を禁止されていたにもかかわらず、組関係者への指示や知人への伝言などを記した手紙を投函するなど、いわゆる<八ト行為>を繰り返していた。桑野元被告は同拘置所の<処遇困難者>の間で<桑マン>と呼ばれ、まるで<暴力団お抱え刑務官>のような存在だった。
その桑野元被告に、天野組長のために便宜を図るよう依頼したのが、ほかならぬ、関生支部の武洋一書記長から100万、200万円の大金を受け取っていた、山口組系山健組内樺山総業の樺山勝美総長(当時)である。樺山総長は天野組長の親族だった。桑野被告は、事件以前から大阪拘置所に収監されていた樺山総長のために、<ハト行為>を行うなど便宜を図っていた。その最中に、武委員長が強要未遂、威力業務妨害罪で逮捕(2005年1月13日)、同罪で起訴された後の同年2月8日、大阪拘置所に収監された。訴訟での検察側冒頭陳述などによると、その直前の同年1月下旬、自ら同拘置所に収監されていた樺山総長は、親密な関係にあった桑野被告に「(樺山総長の)息子を運転手として雇っているもん(武委員長)が近々拘置所に送られてくるので、面倒を見てほしい欲しい」と、武委員長に便宜を図るよう依頼。すでにこれまで便宜供与の見返りで、謝礼を受け取るなど味をしめていた桑野元被告は、これを受け入れ、同拘置所の配房係に自分が担当する部屋に武委員長を収監するよう申し出た。
そうして、同年2月8日、武委員長は桑野元被告が担当する部屋に入った。
桑野元被告は、この日、樺山総長から、自ら所持していた使い捨てカイロ10個入り1袋を武委員長に渡すよう依頼され、これを実行したことを皮切りに、樺山総長と武委員長との間の伝言やメモの橋渡しなど<ハト行為>を続けた。武委員長は、同年3月8日まで大阪拘置所に収容されていたが、その後、大阪府警に再逮捕された。その時点で、本来であれば大阪府警に移管された際に廃棄処分するか、宅下げなどの処分しなければならなかった、武委員長の寝具類をそのまま保管。武委員長が同年4月4日、同拘置所に再収監された際、寝具などを同委員長に渡すなど便宜を図った。再収監で桑野元被告と武委員長は親密な関係になり、樺山総長との間の伝言やメモの橋渡し、食料品や書籍の横流し、ハサミの貸与など便宜を図った。
武委員長が桑野元被告に100万円を渡したのは、最初の事件で保釈中のことだった。同年3月中旬、収監中に桑野元被告から聞いていた、同元被告の携帯電話に電話をかけ、「保釈された」旨の伝言を留守電に残した。そして、同月25日、武委員長は再び桑野元被告に電話をかけ、「今日か、明日会えますか」などと持ちかけた。桑野元被告の都合が悪かったところから、同年4月1日午後、兵庫県宝塚市内のファミリーレストランで、武委員長はカバンの中から100万円の現金が入った封筒を取り出し、テーブルの上において、「これお礼です。取っておいてください」と言って、桑野元被告に渡した。これが、武委員長の刑務官贈賄事件の概要だ。
同事件の公判で、武委員長側(公訴事実に対する弁護人)の意見は、「(大阪拘置所に収容中に)桑野刑務官(当時)から便宜を図ってもらった事実はない」と否認。「桑野からの使い捨てカイロや食べ物・飲み物・本などの差し入れを受け、当時、拘置所に収容されていた樺山勝美からの伝言メモを手渡されたことは認めるが、いずれも被告人(武委員長)の方から依頼したものではなく、桑野が一方的に行ったもの」「公訴事実記載の日時・場所で現金100万円を渡した事実は認めるが、賄賂ではなく貸付けたもの」などと述べ、無罪を主張した。2007年2月19日、大阪地裁は、武委員長に懲役10月を言い渡した。判決文は、現金100万円の受け渡しの際、返済時期や方法を決めず、借用書も求めていないことから、ワイロと認定した。同事件で武委員長側は控訴したが、有罪が確定した。
次回も「偽装労組」の実態を追う。
※記事をより読みやすくする目的で、偽装労組Vol.4から、強調の意味での「 」や、新たに登場する会社名については、2回目以降の(株)表記を省略しています。