特集
生コン業界の仕事や暮らしに役立つ情報をくわしく。
生コン業界の仕事や暮らしに役立つ情報をくわしく。
2019.04.10
今回の特集では、『〈暑中コンクリート工事における対策マニュアル2018〉改定報告会』のレポートと、コンクリートの製造・運搬を担う皆さんには注意していただきたいポイントを簡単にまとめています。暑中期においても、常に安定した品質のコンクリートを提供できるよう、業界人の一人として、ポイントを押さえていただきたいと思います。
主催/日本建築学会近畿支部 材料・施工部会
後援/大阪兵庫生コンクリート工業組合ほか
報告会は建築、土木、生コン関係者280名が参加して行われた。
日本建築学会近畿支部支部長で神戸大学名誉教授の三輪康一氏による挨拶、(株)竹中工務店 大阪本店 技術部の岩清水隆氏による主旨説明に続き兵庫県、大阪府、奈良県、和歌山県の生コン技術者による〈暑中期のコンクリートに関する各地区での実験結果〉や、〈近畿2府4県における荷卸し時のコンクリート温度等の実態調査〉を解説。
その後は〈暑中期に施工されるコンクリートの各規・基準〉、〈本マニュアルの適用条件〉、〈事前協議(ブリーフィング)〉、〈製造者の暑中対策〉〈施工者の暑中対策〉など、中2回の休憩をはさんでマニュアルの各章や付録を補足解説した。
その後は、今後現場で重要となる〈運用・まとめ〉を、(株)淺沼組 日本建築学会近畿支部 材料・施工部会主査の山﨑順二氏が、また報告会全体を見渡しての〈講評〉を大阪大学名誉教授の大野義照氏が行ない、長時間に及ぶ報告会を終えた。
主催 | 日本建築学会近畿支部材料・施工部会 | ||
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後援 | 日本コンクリート工学会近畿支部、土木学会関西支部、大阪兵庫生コンクリート工業組合ほか | ||
司会 | 栗延 正成(阪南産業(株)) | ||
挨拶 | 日本建築学会近畿支部 支部長(神戸大学名誉教授) 三輪 康一 | ||
プログラム | 1) | 主旨説明(㈱竹中工務店 大阪本店技術部) | 岩清水 隆 |
2) | 暑中期のコンクリートに関する各地区での実験結果(付録3) | 船尾 孝好 新宅 和也 中村 嘉 上田 清 |
|
3) | 近畿2 府4 県における荷卸し時のコンクリート温度等の実態調査(付録4) | 大前 祐樹 | |
― 休憩(15分)― | |||
4) | 暑中期に施工されるコンクリートの各規・基準(2章) | 林 典男 | |
5) | 本マニュアルの適用条件(1章・3章) | 岩清水 隆 | |
6) | 事前協議(ブリーフィング)(4章) | 山田 藍 | |
― 休憩(15分)― | |||
7) | 製造者の暑中対策(5章) | 岡田 裕 | |
8) | 施工者の暑中対策(6章) | 柏木 隆男 | |
9) | 運用・まとめ | 山﨑 順二 | |
10) | 講評 | 大野 義照 |
改定版マニュアルには、膨大な情報が詰まっている。ここでは、皆さんがお仕事をする際に意識していただきたい部分をかいつまんで説明したい。
まず、暑中期・極暑期に施工されるコンクリートは、気温の高さや日射の影響で、〈プラスチック収縮ひび割れ〉や〈コールドジョイント〉などが、発生しやすくなるなどの次のような問題が発生する可能性が高い。
そこで暑中期・極暑期のコンクリート温度に気を配り、改定版マニュアルにある適用条件やさまざまな対策、また後ほど説明する関係者とのブリーフィング(事前協議)などによって、対策を講じるよう心がけてほしい。
暑中コンクリートの温度管理について、私たちが直接関わる部分は、主に製造と運搬の部分だ。ここでは、それぞれのポイントを紹介する。詳細については、改定版マニュアルを参照してほしい。
まずは製造に関わる部分。暑中期のコンクリート温度の上昇に対して生コン工場が実施できる暑中対策は、使用する材料の温度を下げることが基本となる。
セメント、細・粗骨材、練混ぜ水、混和剤料などの保管時の温度対策・効果・懸案事項は、次の表の通りだ。
セメントの受入れ・保管時の温度対策は、一般に行われる内容で、設備・管理面共に一定の効果があると考えられる。しかし練上がり時のコンクリート温度を1℃下げるには、セメント温度で約8℃下げる必要があり、より温度を下げるには費用対効果を含めた検討が必要となる。
セメントの受入れ・保管時の温度対策 | 効果 | |
---|---|---|
(1) | 高温のセメントは用いない。 | 大~中 |
(2) | セメントサイロに日除けを設けたり、遮熱塗装を施す。 | 小~微 |
(3) | セメントサイロ内に一定期間貯蔵し、温度を低下させる。 | 小~微 |
(4) | 低熱ポルトランドセメントなど、セメント温度の低いものを使用する。 | 中~小 |
セメントの受入れ・保管時の温度対策 | ||
(1) | セメント温度の受け入れ基準はなく、高温のセメントを使用せざるを得ない。 | |
(2) | セメントサイロを生コン工場が所有していない場合は、対処は厳しい。 | |
(3) | 生コン工場のセメントサイロの数に余裕がない場合が多い。 | |
(4) | 低熱ポルトランドセメントなどを使用する場合は、費用対効果などを、工事関係者間で事前に協議する必要がある。 |
細・粗骨材は、コンクリート内に占める容積割合が大きい。そのため細・粗骨材の温度を2℃下げることで、練上がり時のコンクリート温度を約1℃下げることができる(改定版マニュアル付録2のアンケートによると、実質的な効果はそれほど大きくないとの結果もあり注意が必要)。
細・粗骨材の受入れ・保管時の温度対策 | 効果 | |
---|---|---|
(1) | 細・粗骨材は適度に湿潤したものを受け入れ、粗骨材については、適切に散水して使用する。 | 小~微 |
(2) | 細・粗骨材サイロに日除けを設ける。 | 小~微 |
(3) | ベルトコンベヤーに覆いをかけたり、覆いに遮熱塗料を施す。 | 小~微 |
(4) | 細・粗骨材サイロの換気をよくする。 | 微 |
対策・採用のための懸案事項 | ||
(1) | 細骨材への散水は避ける。また、粗骨材への散水は、蒸発潜熱による効果が大きいが、適切な散水を行うとともに、表面水の管理には十分注意を払う必要がある。 | |
(2) (3) | コルゲートサイロの採用増加も含め、多くの生コン工場で対策を実施しているが、気象等の環境による影響を受ける。 | |
(4) | 換気窓の開閉によるもので、気象等の環境による影響を受ける。 |
練混ぜ水の温度を4℃下げると、コンクリート温度は約1℃下がるが、その保管・管理時の対策は、設備・管理面共にあまり効果的ではない。また、練混ぜ水に冷水や氷などを使用するには、特殊な冷却設備の設置が必要なため、費用対効果を含め、関係者での協議が必要。
練混ぜ水の保管時の温度対策 | 効果 | |
---|---|---|
(1) | 地下水を使用する | 中~小 |
(2) | 貯水槽の立地または設置条件を考慮し、貯水された練混ぜ水が外気温の影響を受け上昇しやすい場合は、ため置きしない。 | 小~微 |
(3) | 貯水槽に覆いをかける。 | 微 |
(4) | 練混ぜ水をチラー※1により、機械的に冷却して使用する。 | 大 |
(5) | アイスプラント※2を使用し、練混ぜ水の一部に氷を用いる。 | 大 |
対策・採用のための懸案事項 | ||
(1) | 環境に配慮する観点から練混ぜ水は、回収水(上澄水)を標準としている生コン工場が多いため、暑中時期には、回収水およびコンクリートの温度を確認して使用する。 | |
(2) (3) (4) |
地下水の使用や貯水槽設備の対応ができない生コン工場がある。 | |
(4) | 特殊な設備のため、ほとんどの生コン工場は設備を保有していない。設備設置時の仕様については想定する生コン量など、コンクリート温度は運搬時間の経過とともに環境温度等の影響を受けて上昇するため、費用対策効果を工事関係者間で協議する必要がある。 | |
(5) | 特殊な設備のため、ほとんどの生コン工場は設備を保有していない。また、氷を使用した場合、JIS マークを表示できないため、工事関係者間で協議する必要がある。 |
暑中期における、コンクリート運搬中の対策としては、生コン車ドラムへの遮熱塗装や断熱塗装、断熱カバーの採用だ。色では、濃色より白色や薄緑色が、また遮熱よりも断熱のほうが有利なことが判明した。
現場待機時の温度上昇抑制対策としては、生コン車への散水や送風、また日陰駐車や仮設庇の設置なども有効な手段と考えられる。
生コン工場から荷卸し地点までの運搬時間の限度は、JISA5308に規定されているように、通年で90分となっている。しかし注意したいのは、この90分には荷卸しに要する時間は含まれていないということだ。そして、日平均気温が25℃以上となる暑中期の場合には、練混ぜ~打込み終了までの時間が90分以内になる(JASS5)ということ、つまり日平均気温によって、運搬中も含めてコンクリート温度を上げないような対策や、遅延形の化学混和剤の使用により、凝結を遅らせるような対策を講じて、工事監理者の承認を受けることで、運搬~打込み終了までの時間の限度を、延長することができるということだ。
さらに、日平均気温が27℃を超える極暑期となる場合は、打込み直後のコンクリート温度が35℃を超える可能性があるため、工事関係者との事前協議において、どのような対策を講じるのかを、決める必要があるということを認識しておいてほしい。
暑中コンクリート工事では、各工程の従事者だけでなく、工事関係者が認識を共有して取り組む必要がある。そこで重要となるのが〈ブリーフィング(事前協議)〉、つまり話し合いだ。
ブリーフィングには、設計段階と施工段階の2段階がある。設計段階のブリーフィングは、設計者が、荷卸し時のコンクリート温度が35℃を超えることを確認し、極暑期対策を盛り込んで設計している場合で、予算措置も含まれるため、設計者と建築主とで行われる。
これに対して、設計段階で、荷卸し時のコンクリート温度が35℃を超えることを確認していない場合、ブリーフィングは施工段階となり、施工者が(場合により設計者も交えて)暑さ対策の検討、または生コン製造者が施工者や工事監理者に対して注意喚起を行い、必要と判断された場合、施工者は生コン製造者や販売店と対策実現の可能性をブリーフィングする。
そして施工者は、実現可能な対策を施工計画書に反映し、工事監理者からの承認を受けるというのが基本的な流れだ。
以上のように、暑中期や極暑期のコンクリート工事では、さまざまな注意が必要となる。各社ではそれを想定した対策を講じていると思われるが、これからは皆さんも、暑中コンクリート工事に対する理解を一歩進め、安定供給に努めていただきたい。
なお本特集は、改定版マニュアルに掲載している情報を、一部引用、また参考にしてまとめている。取材にご協力をいただいた日本建築学会近畿支部の皆様、また、たいへんお忙しいところ内容の確認をいただいた山﨑順二氏に、この場をお借りして感謝したい。
種類 | [1]設計段階のブリーフィング | [2]施工段階のブリーフィング | ||
---|---|---|---|---|
概念図 | ||||
内容 | (1) | 設計者は、極暑期対策を盛り込んで設計し、対策計画を特記仕様書に盛り込む。 | (3) | 施工者は原則として設計者の指示に従えばよいが、実施可能な対策であるかどうかなどについて、生コン製造者や販売店に確認し、工事監理者と協議する。 |
(2) | 設計者は、建託主と、極暑期対策に関して予算措置を含めて協議する。 | (4) | 施工者は、(改定版マニュアルの)3.3に従い、極暑期実機実験や室内試し練りの要否を設計者や生コン製造者と協議の上で決定する。必要な場合には、計画書を作成し、関係者とともに実施に向けた調整を行う。 | |
(5) | 施工者は、特記仕様書に従い、対策内容を盛り込んだ施工計画書を作成し、工事監理者の承認を受ける。 |
種類 | [1]設計段階のブリーフィング | [2]施工段階のブリーフィング | ||
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概念図 | ||||
内容 | (1) | 施工者が、極暑期対策の必要性を検討する。あるいは、生コン製造者が、施工者や工事監理者に対して注意喚起する。 | ||
(2) | 施工者は、生コン製造者や販売店と対策の実施可能性を検討する。 | |||
(3) | 施工者は、同3.3に従い、極暑期実機試験や室内試し練りの要否を設計者や生コン製造者と協議の上で決定する。必要な場合には、計画書を作成し、関係者と共に実施に向けた調整を行う。 | |||
(4) | 極暑期対策のための調合(スランプ、荷卸し時のコンクリート温度)を変更する場合は、工事監理者または設計者は、その可否を建築確認検査機関に確認する。 | |||
(5) | 施工者は、実施可能な対策内容を施工計画書に反映し、工事監理者の承認を受ける。 |
金額 | 5,000円(1冊 |
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送料 | 1冊の場合500円 ※2冊以上の場合は近畿支部へお問い合わせください。 ※申込みは、現金書留にてお願いします(銀行振込みはお受けできません)。 |
リンク | 「暑中コン工事対策マニュアル 2018」発刊のご案内 |
お問い合わせ・お申込み | (一社)日本建築学会近畿支部 TEL.06-6443-0538/FAX.06-6443-3144 E-mail: aij-kinki@kfd.biglobe.ne.jp |